洋書とともに生きていく。

趣味で洋書を読んでいます。本の感想、英語の勉強などについてつづります。

【洋書レビュー】Call Me By Your Name 桃は悪くない!ぜんぶ「愛」とやらが悪いんだ。

今年度のアカデミー賞で最優秀脚本賞に輝いた映画『君の名前で僕を呼んで』の原作です。

LGBTをモチーフにした作品は好きですし、若干、腐女子の気があることも自覚していますので、イケメン俳優2人によるひと夏のラブストーリーと聞いて、日本で公開される前から絶対に観たいと思っていました。

しかし、映像作品に原作がある場合はまず本を読むのが信条(ってほどでもないけど)。なかなか原作を読む暇がないまま時間がたち、映画も観られずじまい。この度ようやく時間ができ、本を手にすることができたのでした。

Call Me By Your Name

購入したのは英国版ペーパーバック

あらすじ

1980年代の夏。17歳のエリオは、大学教授の父親とともに、一家でイタリアの避暑地で暮らしていた。そこへ、アメリカから24歳の大学院生オリヴァーが父親の助手としてやってきて、エリオの家に滞在することになる。やがて激しく惹かれ合い、恋に落ちるエリオとオリヴァー。しかし、短い夏の終わりは、2人の甘い生活が終わることをも意味していた…。

 

いや~、この作品、たくさんのファンがいらっしゃることを承知で、正直に告白しますが…。

読むのがムチャクチャ苦痛でした!

当初、この物語は17歳のエリオが今の心境を語る形で展開されるものだと思っていたのです。ところが読み始めてみると、いかにもインテリが好みそうな見慣れない単語や、まわりくどい長文が出てきます。50ページほど読んだところで(遅いよ)、それが大人になったエリオによる回想録であることが判明しました。この時点でかなり「えー…」という感じになりましたです。

細かな人物描写と情景描写が丁寧に積み上げられ、恋する2人の肌を照らす太陽の光のきらめきや、甘い果実の匂いがリアルに伝わってきます。しかしその美しい文章から、なぜか人間的な温もりが伝わってこないのです。

初恋とは本来、美しいだけでなく、時にみじめで、かっこ悪いもの。なのに、そのようなみっともないものは、大人になったエリオ氏の思い出補正によって、見事に排除されているのです。 美しいもの「だけ」で構成された文章を読んでいると、すでにお腹がいっぱいなのにサーロインステーキとキャビアを無理やり口に突っ込まれているような、そんな感覚に襲われます。

だいたい、イケメン、インテリ、エリートという恵まれた条件を存分に活かせる環境にありつつ、なおかつ叶わぬ恋の病に身を焦がすなんて、わたしたち下々の者からしてみれば、贅沢にもほどがあります。この恋が叶わなくとも、あんたたちなら他にいい思いはいくらでもできるだろうに…。彼らが互いの気をひこうとしたり、かと思えば急に素っ気なくしたり、そんな焦ったさに我慢できなくなって激しく求めあったり…。2人のイチャつきっぷりに付き合わされているうちに、もうイケメン同士で勝手にやってちょうだい、という気持ちになってきます。

極めつけは「桃」のシーン。この場面を電車の中で読むはめになったわたしは、赤面しているのを隠すのが本当に大変でした。幸い周りの乗客はスマホゲームやLINEに夢中だったようで、事なきを得ましたが。はあ〜、これがエリートリベラル向けのポルノというやつか…。

そのうえ、激しく愛し合っているといいながら、2人ともしっかりガールフレンドをキープしていたりするんですよ。まったくもってけしからん奴らです…。

というわけで、途中でいい加減いやになり、何度も本を放り出しそうになリますが、その都度、絶妙なタイミングで、胸がキューンとなる一文が出てきたりするのです。

たとえば、期間限定の恋が終わりに近づいてきたときの、エリオのこの独白。

This was a time when I intentionally failed to drop bread crumbs for my return journey; instead, I ate them.

悔しいけど、美しい。この一文を打ちながらもう泣きそうになってます…。

そんなわけで、会社帰りにBOOK OFFで売却したくなる衝動にかられながらも、読むのをやめることはできませんでした。そして、最後まで読んだ今となっては、この本に出会えて本当によかったと思っています。それは、最終章(「Ghost Spots」)と、Viminiという10歳の少女の存在があったからです。

最終章では、もはやファンタジーの世界にいたエリオとオリヴァーが、ようやく読者のレベルに降りてきてくれます。そして、10歳の少女Viminiは、登場回数は少ないものの、17歳の少年エリオの生き様との対比によって、美男2人の恋愛パートでは感じ取ることのできなかった「人生のやるせなさ」みたいなものを作品に添えてくれています。

この2つの要素なしではこの物語は成り立たないと個人的には思っていますが、映画版ではなんと、これらがばっさりカットされているというではありませんか。これらを盛り込まずして、脚本家のジェームズ・アイヴォリーさんがどのようにして多くの人々の心を掴む作品に仕上げたのか、この目でぜひ確かめなくては。

原作を読んで映画への興味が削がれたどころか、ますます観たくなりました。

  • タイトル:Call Me By Your Name (ペーパーバック版 -Amazon)(Kindle版 -Amazon
  • 作者:André Aciman
  • ページ数:256ページ
  • ジャンル:ロマンス、ラブストーリー、青春小説、LGBT
  • 難易度:ところどころに聞きなれない単語、長文あり。文体にクセがあり、慣れるまでは読みづらいかも。